――まず、音楽ポータルサイト「ミュージックイークラブ」の「ネットでレッスン」の一部をブログにした理由を教えてください。
鞍掛:ネットで学ぶ大人の音楽レッスンサービス「ネットでレッスン」はeラーニングになるわけですが、そもそも楽器は誰もが気軽に買ってくれるものではありません。音楽教室やコンサートを開いたりして、楽器演奏の楽しさを伝えるような販促・宣伝活動が必要になります。ただ、ネットで音楽をレッスンするという感覚をお客さんに伝えるのは非常に難しい。そこで、うちのスタッフ(そぬ=細沼さん)がボイストレーニング体験記をネットで公開することにしました。これが「うたう毎日」です。2004年までは、普通のHTML日記で公開していました。
しかし、2005年からはこれをブログに切り替えました。ブログの認知度が非常に高まってきましたし、見る側もブログのインターフェースにすっかり慣れたのではないでしょうか。制作面では、CMSによる更新作業やメンテナンスが楽、コストが押さえられる、RSSが活用できる、などが挙げられます。もともと我々の部署は、社内でもネットにおける情報収集が1つのミッションになっていて、ユーザーが音楽作品などを公開する「プレイヤーズ王国」ではSNS機能を取り入れるなど、最新のテクノロジーをどんどん取り入れているんですよ。
――「ネットでレッスン」では現在、スタッフがさまざまな楽器のレッスンを実際に受け、その体験ブログ「レッスン日記」を公開しています。eラーニングサイトとブログの相性はどうですか?
井口:いまの段階では良いと思っています。結局、楽器演奏に興味があるお客様がもっとも不安に感じるのは、どういうレッスンをやっているのか、最終的にはどれぐらいうまくなれるのか、その達成度がわからない点にあると思うんですね。それに対して、サービスの提供側ではありますけど、スタッフ自身が講座を体験し、その様子を書いていくことで、その"答え"を見せていけますから。
細沼:あと、「ネットでレッスン」の主要なユーザーは20代30代のサラリーマンです。実際に社員として普通に勤務している同じ世代のスタッフが楽器のレッスンを受けて、さらにブログまで書いている。毎日忙しいから楽器のレッスンなんて続くかなぁ......と不安をもっている人でも、これを読んで「自分もできるんじゃないか?」と感じてもらえるんじゃないか、という期待はあります。自分と同じ目線で、スタッフの演奏が少しずつ上達していく様子を感じてもらえれば、と思います。毎日楽器をがんばってやっている私たち自身の目標は、いずれセッションができるレベルまでうまくなりたいですね。
――ブログを多くのユーザーに読んでもらうための工夫、他人に教えてあげたいノウハウって何かありますか?
井口:それはもう、自己犠牲ですよ(笑)。細沼がカラオケで『涙そうそう』を歌って採点してたときなんかは、「うたう毎日」のPVが一気に上がりましたから。もちろん、メールマガジンで「そぬのカラオケは何点だったでしょう? 結果はこちら!」みたいな形で煽って、クリックしてもらえるよう工夫しましたが、、こういった企画ものは読者ウケがよいのでやったほうがいいでしょうね。実際には、大変だったり面倒くさかったり恥ずかしかったりするんですけど、企業がオフィシャルで運営しているブログの場合は、書き手=サービスの提供側が読者を喜ばそうという気持ちがないと、なかなか見に来てもらえないんじゃないでしょうか。失敗談や恥ずかしい話は面白いですからね。
細沼:そ、そうですね。レッスン体験+企業ブログ更新経験者の感想としは、"恥はかき捨て"です(笑)。公園で歌わされたり、会議室で大声出したり、本当にいろいろやりましたから......。
井口:ただ、失敗は正直に面白おかしく公開したあと、がんばってレッスンをして、その次にチャレンジしたらカラオケの点数が上がっていた。そのときは、やらせなしの成果としてきちんとアピールする。そういうのがあってはじめて、受講者の増加に結びつくんじゃないかと思っています。
――レッスン受講者数の増加という目標があるわけですが、ブログ導入の効果はありましたか?
鞍掛:細沼の活躍で、ボイストレーニングは好調ですね。だいたい2倍ぐらいは増えました。まあ、もとの数が少ないんですが、ブログの効果はあったと思います。良い方向で、読者に対して"親しみ"が出せたんじゃないかと思うんですよね。あとは、やはりコスト的なメリットは大きいです。レッスンを体験したユーザーさんや講師が書くという案もあるにはあるんですが、この場合は新たにコストがかかってしまいますから。
細沼:一番コストのかからないスタッフが自己犠牲......(苦笑)。
――今日のキーワードですね(笑)。
井口:でも、そもそもウェブの世界には自己犠牲が少ないですよね。ネット=匿名の世界=顔を出さないというのは暗黙の了解ですが、サービスや商品によっては、きちんと顔を出すことも大切になるでしょう。「自分がつくって、自分が自信をもってオススメできるサービスなんです」というメッセージを顔を出してブログで書く、と。たとえば、北海道の農園のおじさんが「このトウモロコシは私が作りました。おいしいですよ~」とニッコリ笑っているのを見たら、「そんなに言うなら買って食べてみようじゃないか」と、私ならその気になりますから。
――大きな企業がブログを運営することの難しさ、気をつけるべき点について、何か実感されていることはありますか?
鞍掛:「ミュージックイークラブ」の場合は、"ヤマハ"というブランドを少し裏においているので、比較的自由に運営できているほうだと思います。サービスを開始した頃、音楽ポータルサイトとしてヤマハ以外の楽器メーカーへのリンクを貼ったところ、社内から「ヤマハの運営サイトで、どうして他社へのリンクが貼ってあるんだ」という声が出てきたんですよね。
メーカーがポータルをやるなら、ここは音楽を楽しみたいユーザーが集まるのための情報サイトであって、自社の広告宣伝のためにやっているわけじゃないんだ、と社内できちんと主張しなければいけません。それに、たとえばコメントやトラックバックにヤマハ批判が書き込まれたからと言ってそれを安易に削除しちゃうと、それはもうウソのブログになってしまって、ユーザーの信用をなくしてしまうでしょう。
井口:コメントやトラックバックに関しては、書き手と読者、あるいは読者同士が活発に交流できる場になるのは、なかなか難しいと実感しています。やはりブログの書き手ががんばって自己犠牲して、親近感をもってもらって、行きつけのお店のスタッフが書いているブログぐらいに思ってもらえるようになりたいですね。
――ちなみに、ミュージックイークラブ以外でブログを活用している事例はありますか?
鞍掛:社外的には、クリエイターコラボレーション支援サイト「SoulSwitch」があります。これは音楽のコミュニティだけではなくて、音楽とそれ以外のアーティスト(写真家、書家、陶芸家など)とのコラボレーションを目的に運営しているブログで、外部のスタッフ数人でスタッフ日記を書いています。ヤマハグループ内では、関連会社のヤマハトラベルのサイトを我々の部署がブログでリニューアルしました。同社の社員が「旅のコラム」をブログで更新しています。ただ、サッカーツアーがジュビロ磐田ばかりで、ヤマハ色が強いですが(苦笑)
あとは、社内イントラネットでもブログを活用しています。以前はスタティック(静的)なページでぜんぜん更新されなかったのですが、ブログにしたところ、スタッフ同士の意見交換が活発化しました。同じチームでも連絡はメールではなくブログでやっていて、過去のログも全員で共有しています。実際に使っている印象としては、ブログはメールで相手に伝えにくいようなことを気楽に書ける雰囲気があるし、そこから新しいアイデアが生まれることもある。安価に構築できる社内情報ツールとして、非常にメリットが多いのではないでしょうか。
取材/文:宮脇 淳(ノオト)
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